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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)181号 判決 1985年9月25日

原告

長山巖

被告

飯高利幸

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1当事者双方の求めた裁判

原告は「特許庁が昭和53年審判第9771号事件について昭和58年6月27日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

第2請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は考案の名称を「色鉛筆」とする登録第1226595号実用新案(出願昭和43年3月7日、出願公告昭和49年7月9日、登録昭和53年4月24日、以下「本件考案」という。)の実用新案権者であるところ、被告は、昭和53年6月23日、特許庁に対し、原告を被請求人として、本件考案を無効とすることについての審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和53年審判第9771号事件として審理し、昭和58年6月27日、「本件考案を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年8月24日、原告に送達された。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

本文に詳記する様に把持体1の先端部を先細にして芯挿込孔2を設け、此の芯挿込孔に凹溝4、4aを設けることにより弾力を付与して其れが鉛筆芯7を把握可能に形成し、把持体1の側壁に芯収納孔5を設けて其の芯収納孔中を滑止めにし、其の中に多数の鉛筆芯7を並列に収納することを可能にした色鉛筆(別紙(1)参照)

3  審決の理由の要点

1 本件考案の要旨は前項記載のとおりである。

2 請求人(被告)が本件審判請求について利害関係を有するか否かについて検討するに、請求人が本件考案の色鉛筆を昭和42年12月以降株式会社西村商事の依頼により製造した事実が、証人西村茂規の証言により認められる以上、請求人は本件考案によりその法律的地位に直接影響を受けるものであるから、本件審判請求について利害関係を有するものと認められる。

3 本件考案と証人西村茂規、森義宏、佐藤鎮雄(いずれも請求人の申請)が図示したミニカラーペンシル又はマニカラーとを比較すると、各証人の作成した図面は手書きであるため、多少不正確なところがあり、かつその説明する用語が適切でない点があるとしても、全体としてみれば両者の構成は一致するものと認められる。

証人西村茂規はミニカラーペンシルを昭和42年12月頃から請求人に製造を開始させ、昭和43年2月中旬より株式会社西村商事により販売した事実を、また、証人佐藤鎮雄は株式会社チヤームにいたとき昭和42年10月すぎに日本ボールペン販売株式会社が、貿易通信(1967年11月号)掲載のマニカラーを売り込みに来て、それを株式会社チヤームの得意先に昭和42年暮に納めた事実をそれぞれ証言した。

4  これに対し、被請求人(原告)申請の証人寺西静治、被請求人本人は、前記貿易通信に広告したものの内部構造については記憶がないとしており、広告したものは実際に販売できるような商品ではなく、業界の反響を聞くためのものである旨述べているが、広告に掲載する場合、商品は完成していて注文があればすぐ納品できるのが普通であり、かつ前記貿易通信掲載の商品は簡単なものであつて、外見上からも未完成品とはとうてい考えられない。仮に両名が述べるように、販売できるような商品でなかつたとしたら、その欠陥が問題となり、当然記憶に残つているはずである。

また、一般に考案者は従来技術の問題点を見出し、それを解決するために試行錯誤しながら考案を完成するのが通例であるので、その過程は記憶しているのが普通である。しかるに本件考案者である被請求人は従来品である前記貿易通信掲載のものについて具体的な内部構造を記憶してなく、かつ本件考案をどのようにして考案したかについても明らかにしていないのは不自然である。

してみれば、右両名の証言はにわかに措信しがたく、かつ右証言によつても請求人側の証人による前記証言の信ぴよう性が損われるものではない。

5  したがつて、本件考案はその出願前日本国内において製造され、公然と販売されたミニカラーペンシル又はマニカラーと同一であり、実用新案法3条1項2号に該当するにもかかわらず実用新案登録されたものであるので、同法37条1項1号に該当し、これを無効にすべきものである。

(別紙(2)は前記「貿易通信」掲載の「マニカラー」であり、別紙(3)、(4)、(5)は、青字及び赤字による書込みを除きそれぞれ証人西村茂規、同森義宏、同佐藤鎮雄が証人尋問の際説明のため手記したものである。)

4  審決を取消すべき事由

1 実用新案登録の無効審判を請求するには、請求人が右実用新案権の存在又は実行により、法律上の抑制を受け正当な利益を享受することを阻害され、或は損害賠償その他の法的責任を追及されるおそれがあることが必要である。しかし、被告にはそのような事実は見出し得ない。審決は虚偽文書たる証人西村茂規の尋問調書を根拠として、被告につき本件考案の無効審判の請求をするについての利害関係を認めたもので、事実認定を誤つた。

2 「公然実施」の誤認

審決が摘示するミニカラーペンシル及びマニカラーは、条理上考案者に不利益を与えることを回避しなければならない者(協力者、補助者)が了知したにすぎないから、本件考案出願前に公然実施されたことにはならないのに、審決はこの点の認定を誤つた。

3 構成の同一性の誤認

(1)  本件考案の登録請求の範囲には「……芯挿込孔2を設け、此の芯挿込孔に凹溝4、4aを設けることにより弾力性を付与して……」と記載されているが、「芯挿込孔に凹溝4、4aを設ける」とは、明細書の考案の詳細な説明及び図面によれば、芯挿込孔2と凹溝4、4aが三角形状の切取部3により連通していることを意味するのである。かかる構成を採択することにより、鉛筆芯7を確実に把持することがはじめて可能となるのである。即ち、芯挿込孔2に鉛筆芯7を挿入し、芯挿込孔2に連通した凹溝4、4aの各外側肉質部を把持すれば、右凹溝によつて弾力性が付与されることになり、右凹溝の外側肉質部は若干押しつぶされてますます鉛筆芯7を強固に把圧し、鉛筆芯7を着色等のため着色対象たる線図等の紙上を擦動させる時、鉛筆芯7は把持体1との一体性を助長され、芯挿込孔2から抜脱したり、その挿込みが揺動することがない。また、鉛筆芯7を芯挿込孔2に挿入するに際しても鉛筆芯7の一端部が芯挿込孔2に若干挿込まれれば、鉛筆芯7に対する押圧力が芯挿込孔2を拡開して鉛筆芯7を容易に芯挿込孔2中へ挿入することができ、鉛筆芯7を欠損する虞れはない。そこで、鉛筆芯7の一端部のみを芯挿込孔2より若干細目にしておけば、鉛筆芯7の主たる部分を芯挿込孔2より太目にするもこれに容易に挿込むことができ、鉛筆芯7の主たる部分が太目であることは着色の際濃厚に塗擦することのできる効果をもたらす。

(2)  しかるに、審決が本件考案と同一の構成と認めた色鉛筆であるミニカラーペンシル及びマニカラーは芯挿込孔と凹溝が連通している構成(以下「連通構成」という。)を採つていない。そのことは、ミニカラーペンシルとして証人西村、同森が手記図示した別紙(3)、(4)、及びマニカラーとして証人佐藤が手記図示した別紙(5)をみれば、いずれも肉質部(青字記入部分)と先端部が断絶していることから、明らかなところであり、また、マニカラーの写真である別紙(2)によるも、マニカラーが連通構成を備えているか否か明らかではない。

(3)  証人西村はミニカラーペンシルについて「穴の部分を残して周りは接着されています」(36項)(「同証人の尋問調書第36項」の意、以下同じ。)と述べており、その手記に係る別紙(3)によれば、先端部に近い部位に空気穴と摘示してある個所の周囲は軸の肉で囲繞されており、また、右空気穴は本件考案の凹溝とは全く別異のものである。このことからみても、ミニカラーペンシルは連通構成を備えていないことは明らかである。もつとも、同証人は別紙(3)の芯を入れる部分について「裂けています。」(38項)とか「割れ目がないということはあり得ないということです。」(39項)とか述べているが、右証言は芯挿込孔を囲繞する肉質部に切断線のあることをいうのかその他のことを意味するのか判然とせず、いずれにせよ、連通構成に関し述べているものと認めることはできない。

また、同証人は、ミニカラーペンシルを製造、販売したと述べながらその材料の購入先、製品の販売先については全く述べておらず、41項42項の証言によれば本件考案の実用新案公報すら理解する能力を有していないと断定できるし、35項では曖昧にして矛盾した証言をしている。更に、同証人の尋問調書には原告側が行つた反対尋問のうち記載されていない部分もある。かような西村証言を採用してなされた審決の事実認定が誤りであることは明らかである。

(4)  証人森が手記した別紙(4)の空洞とある部分はいずれも軸の肉で囲繞されているし、右空洞は二分され本件考案の凹溝とは異別のものである。また、同証人はその材料、製作手段、販売先等を裏付ける事実を述べておらず、その証言は採用に値しない。

(5)  証人佐藤はマニカラーの芯挿入孔について「芯が落ちない程度のきつめの穴」と証言している。このような穴は内側へ向つたゆるやかな構造にすれば、その目的を達成し製作も容易で価格も低廉であつて、鉛筆芯を確固に挿着することができる。しかし、右の構造は連通構成とは異なる。同証人の手記した別紙(5)の空洞部分は軸の肉で囲繞されているし、右空洞部分は二分され本件考案の凹溝とは異別である。また、同証人はその材料、製作手段、販売先等を裏付ける事実を述べておらず、その証言は採用に値しない。

甲第7号証の1ないし3(貿易通信1967年11月号135頁)におけるマニカラーの広告として掲載されている物品をみるに、本件考案の芯挿込孔2に対応する個所は縦方向に垂直であり、かつその長さが傾斜部全体(先端部の先細部)にわたつて長四角形となつているが、本件考案の芯挿込孔2は上下とも内向き傾斜になつており、かつ長さが先端部の先細にした傾斜部の半分強にとどまつている。また、右広告のマニカラーの写真には本件考案における芯収納孔5の中を滑止めにした構造は全くみられない。この点からみても本件考案のマニカラーとは構成を異にするものというべきである。

(6)  審決は本件考案と西村、森、佐藤の3証人の手記した別紙(3)、(4)、(5)を対比するに当たり、「全体としてみれば両者の構成は一致するものと認められる。」と判断した。しかし、本件考案と各証人の手記した図を対比するに当つては、各証人の証言及び手記した図ごとにその構成を認定し、各別に本件考案との同一性を判断すべきであるのに、これらをまとめて全体として本件考案と対比することは、あたかも特許庁が別個の考案を作り出すことに等しく、かかることが実用新案法上許されないことは明らかである。審決の右のような対比判断の方法は誤りである。

4 審決は、審決の理由の要点4において原告申請の証人寺西静治の証言及び原告本人の供述を措信できないものとして排斥しているが、右両名は審決が摘示するような「甲第7号証の1ないし3(貿易通信)に広告したものの内部構造については記憶がない。」と述べたことはない。貿易通信に掲載した広告の企画と写真に表現された物品は日本ボールペン販売株式会社と営業上一体関係にある証人寺西が提供したものであり、その際本件考案の要旨とする構成は未だ存在せず、その状態で広告をなし、実際商品製造着手前の市場(問屋、卸業者)の反響を調査したとの証言がされたのである。審決は虚構の証言を捏造したうえ、誤つた判断をしたのである。このように、審決の理由の要点4の判断は誤りである。

第3請求の原因の認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3は認める。同4のうち3(1)は認め(但し芯挿込孔2と凹溝4、4aとの連通の態様が三角形状をなした切取り部3によるものと限定されるものではない。)、その余は争う。

2  被告の主張

1 西村証言及び別紙(3)について

証人西村がミニカラーペンシルとして手記した別紙(3)において、先端部の芯挿入孔の両側と赤色符号1の部分(芯挿込孔と前方の空気穴との空間部)と同2の部分(前方の空気穴)の両側に裂目があり、これにより本件考案同様芯挿込孔に弾性を与えるものであることは、赤色符号3で示された部分に描線が書かれていること、同証人が上下の軸はつながつておらず、先端部の肉を薄くすることによつてプラスチツクの弾性を利用するものである旨を証言していること(同尋問調書((甲第4号証の2))66丁表14ないし15行、34項、35項)から認めることができる。

2 森証言及び別紙(4)について

証人森がミニカラーペンシルとして手記した別紙(4)において、芯挿込孔の両側から赤字符号4の部分(前方の空洞)に至る赤字符号5で明確に書かれた裂目があり、この裂目によつて、本件考案同様芯挿入孔が弾力性を付与される。空洞が二分されていることは本件考案との同一性を認める妨げとはならない。

3  佐藤証言、別紙(5)及び別紙(2)について

証人佐藤がマニカラーとして手記した別紙(5)において、軸の前方に赤色符号7により示した傾斜部があり、その前方に芯挿入孔が、その後に赤色符号8により示した凹溝があることは明らかである。そして、別紙(2)の貿易通信掲載のマニカラーの写真を別紙(5)により認められる内部構造を当てはめると、マニカラーは傾斜部の先端に芯挿込孔、その後方に凹溝を備え、傾斜部の全体にわたり同部を2つ割りにする裂目が形成されているという構造であることがわかる。右裂目により本件考案同様芯挿入孔が弾力性を付与されることは明らかである。

4  以上のとおりミニカラーペンシル及びマニカラーはいずれも芯挿入口と凹溝とが連通し「芯挿込孔に凹溝を設けることにより弾力性を付与する」という本件考案の構成を備えているものということができるから、両者の構成が一致すると判断した審決に誤りはない。

第4証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

2  原告は、被告は本件無効審判を請求する利益を有しない旨主張する。しかし、原本の存在及び成立に争いのない甲第4号証の2によれば、被告は昭和42年頃以来鉛筆製造業を営む者であると認められるから、本件考案に係る実用新案が無効とされることにより、原告から差止請求等を受けることなく本件考案と同一の色鉛筆を製造することができるし、その存続期間満了(昭和58年3月7日)後にあつても期間中製造した色鉛筆について原告から損害賠償請求を受けるおそれはなくなる。被告はかような立場にある以上本件考案について登録無効の審判を請求する利益を有するものというべきである。

3  前記当事者間に争いのない登録請求の範囲の記載によれば、本件考案の要旨は、「(a)把持体1の先端部を先細にして芯挿込孔2を設け、此の芯挿込孔に凹溝4、4aを設けることにより弾力を付与して其れが鉛筆芯7を把持可能に形成し、(b)把持体1の側壁に芯収納孔5を設けて其の芯収納孔中を滑止めにし、其の中に多数の鉛筆芯7を並列に収納することを可能にした色鉛筆」であると認められる。

原告は、右の要旨(a)の「芯挿入孔に凹溝4、4aを設ける」とは芯挿入孔2と凹溝4、4aが三角形状の切取部3により連通していることを意味すると主張し、このことは、右連通構成が三角形状の切取部に限定されるとの点を除き、当事者間に争いがない。そして、前記登録請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第2号証によれば、原告主張の切取部3による連通構成は本件考案の一実施例にとどまり、本件考案の連通構成はこれに限定されるものでないことが認められる。したがつて、芯挿入孔と凹溝との間が何らかの形で連通し、それによつて先端部に弾力性が付与され芯が確実に把持される効果が得られるのであれば、その連通態様は本件考案の構成に含まれるものということができる。

4  そこで、審決が摘示した色鉛筆のうち、マニカラーが本件考案の構成を備えているか否か及びマニカラーが公然実施されていたか否かを検討する。

1(1) いずれも原本の存在及び成立に争いがない甲第4号証の4、第6号証の1、2、第7号証の1ないし3、第9号証(ただし甲第6号証の1、2のうち後記信用しない部分を除く。)によれば、日本ボールペン販売株式会社は、原告が勤務する寺西商事株式会社の製品の販売を目的とする会社で同会社の代表取締役の寺西静治が代表取締役を兼ねている会社であるが、本件考案の出願前である昭和42年10月頃株式会社貿易通信社発行の雑誌「貿易通信」1967年11月号135頁(甲第7号証の1ないし3)に27色色鉛筆マニカラーの写真(隣接する2側面を斜め上方から撮影したもの)を特許出願中(PAT.P)との表示を付して広告として掲載し、その頃右マニカラーを記念品贈答品等を扱う株式会社チヤームに販売したこと、同会社は同年暮頃、その従業員佐藤鎮雄の売込により、これを取引先のそごうデパートに販売したこと、右マニカラーの内部構造は概ね別紙(5)のとおりであつたことが認められる。

(2)(1) 前掲甲第7号証の2掲載の写真から把握し得るマニカラーの構成として、全長の約6分の5が四角柱状の部分(把持部)、約6分の1が先端を先細状とした四角錐状の部分(傾斜部)からなり、把持部の側壁には27個の芯を接着して並べた収納孔が設けられ、傾斜状部には先端部を先細にして芯挿入孔が設けられているほか、その一側面には芯挿入孔を含む裂目があることが認められる。

(2) 前記(1)により把握し得るマニカラーの構成と前掲甲第4号証の4及び第9号証によれば、芯挿入孔の深さはせいぜい傾斜部の高さの約2分の1程度であること、傾斜部内には芯挿入孔とその後部に仕切りを隔てて凹溝1個があること、右凹溝の後部には更に仕切りを隔てて凹溝があるが、右凹溝間の仕切部分が傾斜部と把持部の接する部分とほぼ一致すること、前記(1)により認められる傾斜状部の一側面の裂目はこれに対向する側面に及んでおり、結局芯挿入孔を含みこれに接する凹溝を二分する形でその先端部から底部(傾斜部と把持部の接する部分)に至るまで底部に対し垂直な形で形成されていること、芯収納孔の一側には滑止め用としてウレタンを敷き収納中の芯の脱落を防いでいることが認められる。

(3) 前記(2)に認定したところによれば、マニカラーが本件考案の(b)の構成を備えていることは明らかである。

また、前記(2)の認定によれば、マニカラーの先端部は四角錐状の傾斜部で、その先端には芯挿入孔があり、これと仕切を隔てて凹溝が接し、この両者間に裂目があり、これにより芯挿入孔と凹溝は連通することとなるから、この連通構成により先端部は弾力性を付与され、挿入された芯を確実に把持する効果をもたらすものということができる。右の連通構成は原告主張の本件考案の連通構成とその態様が異なるが、本件考案における芯挿入孔と凹溝の連通態様に何らの限定が付されていないことは前記3で認定したとおりであるから、マニカラーは本件考案の(a)の構成をも備えているものと認められる。

なお、前記(2)の認定によれば、マニカラーは芯挿入孔と連通する凹溝のほか、その後方にも凹溝を備えているが(その位置は傾斜部底部と芯収納孔前端との間にあるものと認められる。)、本件考案にはかような凹溝の構成はない。しかし、マニカラーが本件考案の構成すべてを備えていることは前記のとおりであり、右の凹溝により両者の構成、効果に格別の差異をもたらすものとも認められないから、右の凹溝は両者の同一性を認めることの妨げとはならない。

2 前記甲第6号証の1、2(特許庁における証人寺西静治及び審判被請求人である原告本人の尋問調書)中、「貿易通信」に広告したものは業界の反響を聞くためのもので、実際に販売できるような商品ではない旨の供述記載は、日本ボールペン販売株式会社がマニカラーを株式会社チヤームに販売したとの前記1(1)の認定に反するが、審決が述べているように、広告に掲載した以上、特段の事情のない限り、注文があれば直ちに納品できる状態にあるのが普通であるところ、右特段の事情を認めるに足りる証拠がないので、これを信用することができない。また、右各甲号証には、「貿易通信」に広告されたマニカラーと本件考案の色鉛筆とは内部の構造が異なる旨の供述記載があるが(ただし、マニカラーの内部構造についての具体的な記載はない。)、前掲各証拠に照らせば、右は前認定の芯挿入孔と凹溝の連通態様が本件考案における連通態様と相違する趣旨と認められるので、右各甲号証は前記1(1)、(2)の認定を妨げるものではない。原本の存在と成立に争いのない甲第5号証中右と同趣旨の記載についても同様であり、他に前認定を妨げるに足りる証拠はない。なお、前記甲第4号証の4(特許庁における証人佐藤鎮雄の尋問調書)に材料、製作手段、販売先等を裏付ける事実の供述記載がないからといつて同号証の記載が信用性を欠くとはいえないことはいうまでもない。

3 原告は、マニカラーは条理上考案者に不利益を与えることを回避しなければならない者が了知したにすぎない旨主張するが、前認定の株式会社チヤーム、その従業員佐藤鎮雄、そごうデパートとその従業員が本件考案の考案者である原告に対し、条理上マニカラーの構造につき秘密を守る義務を負うべき関係にあつたことを認めるに足りる証拠はない。もつとも、前掲甲第4号証の4によれば、前記佐藤鎮雄は昭和42年1月から4月まで日本ボールペン販売株式会社に勤務したことが認められるが、この事実だけから前叙の義務が生ずると解すべき理由はない。

4 以上述べたところによれば、本件考案と同一の構成を備えたマニカラーが本願出願前日本国内において公然実施されていたものということができる。

5 そうであるとすれば、ミニカラーペンシルが本件考案と同一の構成を備えていない旨の原告の主張について判断するまでもなく、本件考案は実用新案法3条1項2号に該当することが明らかであるから、その実用新案登録は同法37条1項1号によりこれを無効とすべきであるとした審決の結論は正当である。そして、その余の原告の主張はそれだけでは審決を取消すべき事由とならないから、これについて判断する必要がない。

よつて、原告の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(瀧川叡一 松野嘉貞 清野寛甫)

<以下省略>

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